野犬には何度となく痛い目に遭わされてきた。
昼下がり、鶏舎の裏山で野犬が吠えているのが聞こえたので行ってみた。
吠える野犬の声を頼りに山の斜面を進む。
奴らの活動するテリトリーに踏み入ったことを、細く、しかし、しっかりと付いた獣道に感じる。
何処から見ているのであろうか、あちらは私の侵入に気付いているようで激しく吠えながら移動している。
急な斜面を時には手をつきながら駆け上がる。
居た!
一瞬木立の間に野犬の姿が見えた。
しかしなぜ、吠えながら移動するのか、ちらちらと時折姿を見せながら。
黙って移動すれば良いものを。
野犬を追っているのが私であり、その逆ではない。
なのに、この状況は何だ。
まるでおびき寄せられているようで、嫌な感じだ。どこに誘い出そうというのか。
植生の薄い尾根まで一気に駆け上がり、そのまま尾根伝いに更に奥へ。
だが、見失った。野犬は山の一部となり、その気配を消した。
見渡せども人工物など何も見えない薄暗い山の中で、
獣のように荒い息を吐き、私は、独り、吠えた(ウソ)。
野犬を見失ったので引き返そうと思ったのだが、後先考えずに走ってきたので、何処をどう通ってきたのか全く分からない。
というか、ここは何処なんだ?
とにかく下れば馴染みの沢に出る筈と、適当に方角を見定めて下って行った。
全く見覚えの無い場所で、明らかに登った時とは違うルートを進んでいる。
まだ太陽は高い位置にあるので焦りはないが、足場の悪い斜面を歩くことに嫌気が差してきたので、最短で鶏舎の近くに辿り着きたい。
鶏舎から離れた場所に出たらうんざりしそうだと考えていたのだが、沢が見えるところまで下ると、いつの間にか登る時に使った獣道に戻っていることに気がついた。
自分の方向感覚の確かさを認識することが出来た瞬間であった。
(大きい建物の中では方向が分からなくなり、よく迷子になるのだが)
応援して下さいね。